自己破産|商品仕入れに関わる背任行為


主文

本件控訴を棄却する。

理由

 本件控訴の趣意は,主任弁護人福永宏,弁護人清野惇及び同国政道明連名作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は検察官見越正秋作成の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。
 論旨は,要するに,原判決は,広島市中区所在の株式会社Aの代表取締役副社長(平成12年5月24日から同社長)として,同社の業務全般を統括掌理していた被告人が,自己が代表取締役社長を務める,同社の子会社である株式会社Bが多量の在庫商品を抱えていたところ,同商品は,流行遅れなどにより商品価値を減じており,同商品を仕入れても百貨店では販売する見込みがなく,かつ,これを仕入れるなどして上記株式会社Bの財務支援を行う差し迫った必要もなかったのであるから,同商品の仕入れを差し控えるなど上記株式会社Aのため忠実に職務を遂行すべき任務があったにもかかわらず,上記株式会社Bの利益を図る目的をもって,その任務に背き,平成8年11月ころから平成12年5月ころまでの間,販売の見込みのないまま,上記株式会社Bから,上記商品を購入し,平成8年12月24日から平成12年6月21日までの間,上記株式会社B名義の普通預金口座に上記商品購入代金等として,合計3億1929万4598円を振込送金し,もって,上記株式会社Aに対し,同額の財産上の損害を与えたとの事実を認定したが,上記商品の買取りを正当な財務支援行為と認めず,被告人の任務違背行為とした点に事実の誤認があり,また,取締役会の承認決議等の手続要件の不履行をもって任務違背としたり,本来,単体としての会社企業を前提とする商法486条1項の規定を安易に企業結合体としての親子会社に適用するなどした点に,同条項によるいわゆる特別背任罪の解釈,適用を誤った違法があるなどというのである。
 そこで,検討すると,関係証拠によれば,原判決認定の「罪となるべき事実」及び「事実認定の補足説明」の項における説示は,当裁判所も概ね正当なものとして是認することができるから,原判決には所論のいう事実の誤認ないし法令適用の誤りはない。以下,所論にかんがみ,付言する。
1 関係証拠によれば,以下の事実を認めることができ,この認定を左右する証拠はない。
 (1) 株式会社Aは,百貨店業等を目的として,株式会社C代表取締役社長D(以下「D」という。)の出店拡大方針により多数設立されたCグループ百貨店の一つであり,代表取締役社長はDであったが,昭和61年5月,代表取締役専務(平成4年5月からは代表取締役副社長)に就任したEが実質的な経営を担当していた。
 (2) ところで,Cグループにおいては,Dが経営の多角化や売上拡大の方針を打ち出していたことから,Eは,次々と株式会社Aの子会社を設立して,上記方針に沿った経営を始め,昭和61年7月には,衣料品製造等を目的とするF株式会社を株式会社Aの子会社として設立し,代表取締役社長に就任するとともに,株式会社Aの衣料品担当者であるGを代表取締役専務に据えて責任者としたほか,株式会社A社員を出向させたものの,F株式会社には衣料品製造の経験者がいなかっただけではなく,販路も確保しないまま,国内外から大量の婦人服等を仕入れ,また,多くの不良品が出たこともあり,業績は芳しくなかった。
 (3) 一方,被告人は,H株式会社及びその関連会社の役職員を経て,大学時代の恩師であるDに勧められ,昭和62年2月,F株式会社に入社し,同年8月には,代表取締役副社長に就任し,同社の業績不振を回復するため,国外に発注した製品を巡る紛議の解決に努力したほか,友人の学校法人I理事長Jを通じて交渉した結果,同年12月,F株式会社とIとの業務提携契約を締結し,同学園が製造販売する高級婦人服である株式会社Bモード等のブランド商品(以下「B商品」という。)の営業権等を5億4000万円余で取得した。
 (4) そこで,F株式会社は,Iからの出向者を加えて,Eの指示により,昭和63年度の年間売上目標を100億円とし,具体的な販売見込みのないまま,B商品を増産して,B商品を販売するBショップをCグループ等の全国の百貨店に新規出店させ,また,量販店向けのF株式会社の独自商品(以下「F商品」という。)の製造販売を始め,被告人は,これまで衣料品の業界経験がないことなどもあり,このような商品開発,生産計画を承認した。しかし,F商品の販売不振が続いたため,昭和63年12月,F商品の製造,販売を全面的に中止し,その後は,B商品のみの製造,販売を行うようにして,Bショップの店舗拡大に応じて,B商品の増産を図ったものの,B商品も販売不振に陥り,平成3年3月末の在庫は,F商品が2億7446万円余,B商品が11億7218万円余の巨額に達したことから,被告人は,Eより在庫商品の処理を強く迫られるようになったが,在庫商品の処理は一向に進まなかった。
 (5) そして,Eは,被告人から,社名とブランド名が一致したほうがよいとの提案を受け,Jの了解も得られたことから,社名をF株式会社からBに変更することに同意したが,当時F株式会社は債務超過状態であったため,別会社としてBを設立し,F株式会社を吸収合併させ,その際,F株式会社の固定資産評価額を上方修正することで,債務超過状態の表面化を避けることとし,平成3年6月,株式会社Aの子会社である株式会社Bを設立して,代表取締役社長に就任するとともに,被告人を代表取締役副社長に据えた上,平成4年12月,株式会社BがF株式会社を吸収合併して,大量の在庫とともに,F株式会社の事業を承継し,その際,Iにおいて,株式会社Bの株式200株を引き受けて,出資比率20パーセントの株主となった。このようにして,株式会社Bは,発足したものの,在庫の大部分が実際には商品価値の乏しいものであり,被告人は,Eから,大量の在庫を早急に処理するように迫られ,F商品については量販店に処分し,B商品についてはバーゲンセール等で販売するなどしたが,大量の在庫を処理するには至らず,Gを通じて,Eに対して,株式会社Bの大量の在庫を株式会社Aで買い取って欲しい旨申し入れたところ,拒否されてしまった。
なお,衣料品の場合には,長期の在庫は,商品価値を失うため,廃棄処分をするのが通常であり,株式会社Aでは1年半くらいで廃棄処分としていたが,株式会社Bでは,平成5年ころまでは赤字続きであったため,多額の損失を計上することを避けるべく,廃棄処分とはしておらず,平成6年度には,販売不振店舗の閉鎖,経費削減に努めた結果,当期利益は黒字に転じたとはいえ,大量の在庫処理は進展しなかった。
 (6) そうするうち,Cグループの経営状態は悪化の一方をたどった結果,平成6年4月,融資先のK銀行から役員が派遣され,Dは会長職に退いて,再建計画が実施されることになり,株式会社Aにも,同銀行からLが経理財務担当の代表取締役専務として派遣されるに至った。Eは,株式会社Bの経営状態が回復し,経営も次第に軌道に乗りつつあるとは考えたものの,大量の在庫処理のめどが立たなかったため,被告人に対して,その責任をとって相談役に退くように通告し,平成7年5月,株式会社Bの取締役会において,被告人を代表取締役相談役に降格し,Gが代表取締役副社長に就任することが決議された。
しかし,これを聞かされていなかったDは,平成8年5月ころ,株式会社Aの取締役会を開き,Eが子会社の経営に失敗して巨額の損失を与えたなどとして,Eを株式会社A代表取締役副社長及び株式会社B代表取締役社長の地位から解任し,それらの後任に被告人を就任させる旨決議し,被告人が株式会社Aの実質的な経営責任者となった。
 (7) 被告人は,平成8年8月か9月ころ,Gから,株式会社Bの在庫商品を株式会社Aで買い取って欲しいと依頼され,これを承諾し,直ちに,担当者のMに株式会社Bの在庫商品を買い取るように指示した。そこで,Mは,部下とともに株式会社Bの在庫商品の確認をしたところ,いずれも商品価値がなく,店頭で販売できる商品ではないことが明らかとなったため,被告人に対して,店頭に置いた場合には信用に傷がつくような商品であり,買い取っても捨てるしかない旨報告して,買取りを断念するように意見具申をしたが,被告人は,これを聞き入れず,株式会社Bの在庫商品を簿価で買い取るように指示した。やむなく,Mは,Lに対して,被告人の指示内容を説明し,同人から買い取った商品に関しては特別値下げ損失で処理するようにとの指示を受け,平成8年11月以降,株式会社Bの在庫商品を買い取るようになったが,被告人は,株式会社Bの在庫商品の買取りについて,株式会社Aの取締役会の承認を受ける手続を経ることはなかった。なお,平成8年10月末の株式会社Bの在庫商品は,B商品が8億8785万円余,F商品が2億291万円余の総計10億9077万円余であり,このうち平成6年以前からの不良在庫は,F商品の全額,B商品のうち5億3588万円余の総計7億3880万円余に達していた。
 (8) このような経緯で,株式会社Aは,平成8年11月ころから平成12年5月ころまでの間,株式会社Bの在庫商品を買取り,商品購入代金として合計3億1929万円余を株式会社B名義の預金口座に振込送金したが,その結果,平成12年7月末の株式会社Bの在庫商品は,B商品が5億6115万円余,F商品が968万円余の総計5億7083万円余と大幅に減少した。他方,株式会社Aが買い取った株式会社Bの在庫商品は,店頭に置かれることもなく,すべて廃棄処分されたが,具体的には,半期末ごとに,営業各課から特別損失を予定している商品の一覧表が提出され,被告人及びLの事前の口頭決裁の後,被告人による廃棄処分に関する正式な稟議書による決裁を受けてから,廃棄処分とされていたし,被告人は,毎月最低1回は開かれる株式会社Aの経営企画会議や,毎月1回程度開かれる株式会社Bを始めとする関係会社の経営連絡会議の席上で,株式会社Bの在庫商品の買取り及び廃棄状況について具体的な報告を受け,株式会社Bの在庫商品の買取りを継続するように指示するなどしていた。なお,株式会社Bの業績をみると,平成5年度以降,概ね20億円前後の売上があり,平成6年度から平成9年度の間は経常利益を計上しており,平成10年度及び平成11年度は赤字を計上しているものの,それは株式投資の失敗や固定資産の売却損,あるいは,Bショップの撤退によるものであって,不良在庫による含み損があるとはいえ,借入金が年々順調に減少し,その利払いも滞ってはおらず,債務超過の状態は徐々に解消されつつあった。
 (9) 株式会社Aの業績をみると,売上高は,平成3年度をピークとして,年々減少する傾向にあった上,増加する一方の巨額の借入金を抱えており,不良資産化した貸付金,有価証券,保証債務等に伴う実損や損失見込額を計上しないこと等で,かろうじて黒字を計上していたが,平成11年度の決算では,上記実損や損失見込額を計上した結果,特別損失が1300億円を超え,一気に税引き前利益が1285億円の巨額の赤字となり,債務超過の状態に陥ってしまった。また,Cグループでは,店舗拡大,売上優先の方針を採っていたが,株式会社Aを含む百貨店各社は,グループ各社間での出資,貸付のほか,銀行借入の際の保証を行っていたため,巨額の有利子負債を抱え,平成6年以降,グループの再建計画を策定して経営状態の改善を図ったものの,業績を回復することができず,平成12年7月12日,東京地方裁判所に対し,民事再生法の適用を申請し,同月26日,民事再生手続が開始され,そのため,株式会社Bの信用不安が広がり,資金繰りや商品仕入れが困難となった結果,株式会社Bは,同年8月18日,広島地方裁判所に対し,自己破産の申請をし,同月28日,破産宣告を受けるに至った。
2 以上の事実関係によれば,株式会社Aは,上記株式会社Bの在庫商品の買取りにより,およそ商品価値のない多量の在庫商品を株式会社Bの簿価で買い取って,株式会社Bに3億1929万円余の支払いをしたことになるから,上記金額相当の損害を受けたことは明らかである。そして,被告人は,株式会社Aの代表取締役として,株式会社Bの利益を図って,株式会社Aに対して,このような財産的損害を与える買取行為を差し控えるべき任務に違背したものといわなければならない。
3 所論は,本件株式会社Bの在庫商品の買取当時,株式会社Aは,売上が減少し,借入金が増加しており,経営状態が芳しくないことなどから,子会社を支援する余力もなかったのに,他方では,株式会社Bの経営状態が好転しつつあり,株式会社Bを早期に支援すべき緊急性,必要性がなかった旨原判決は認定するが,本件買取りは,在庫商品の消化と運転資金の供与を兼ねた親会社から子会社への正当な財政支援行為である上,当時の株式会社Bの財務内容は極度に悪化しており,債務超過の破産状態にあり,親会社である株式会社Aの支援を受けてかろうじて事業を継続していたのであるから,財務支援の緊急性,必要性があったし,株式会社Aには本件買取りを行う経営体力も十分にあり,その事業経営や財務運営に支障をもたらすようなものではなかったから,財務支援の方法としても相当であって,原判決には事実の誤認がある,というのである。
  しかしながら,本件買取りは,実質的に無価値な商品を株式会社Bの簿価で買い取ったというのであるから,株式会社Aが一方的に多額の金員を支払う一方で,株式会社Bにおいては一切の負担等を伴わないものであり,通常の親会社から子会社に対する財政支援行為とは性格を異にしていること,上記のとおり,株式会社Bの経営状態は,多額な不良在庫商品を抱えており,その財務内容が良好とはいえなかったことが明らかであるが,業績自体は黒字を計上しており,多額の借入金も順調に減少しており,その利払いが滞ることもなく,当面の資金繰り等に困難を来すものではなかったこと,他方では,株式会社Aの経営状態は,上記のとおり,実際には悪化の一方であり,経済的な利益をもたらさず,株式会社Aのみの損失により,株式会社Bに対して利益を与える行為が,所論がいうような相当な財政支援行為といえないことは明白である。
4 所論は,被告人が株式会社Bの利益を図ることを主たる目的として本件買取りに及んだ旨原判決は認定したが,株式会社Bは株式会社Aが実質的に支配する,その分身ともいうべき子会社であるから,被告人に第三者図利の目的があったとはいえず,原判決には事実の誤認がある,というのである。
  しかしながら,親子会社であっても,別個の法人格を有しており,独立した組織や資産を有して,独自の事業活動を営んでいるのであるから,その利害も常に同一とは評価することができない上,株式会社Bは,Iもその一部を出資しており,株式会社Aの100パーセント子会社ではないのであって,株式会社Bに利益を与える目的で,株式会社Aに損失を与えることがあり得ないなどとはいえないこと,本件の経緯を検討すると,長期間にわたって株式会社Bの経営を担当してきた被告人が,大量の不良在庫の処理に苦しんでいたところ,株式会社Aの経営責任者となり,株式会社B関係者からの要求に応じて,在庫商品の買取りの名目で,実質的には無償の資金供与を行ったものであり,株式会社Bに対しては不当な利益を与える一方で,株式会社Aに対しては不当な損失を与えるものであって,後記のとおり,専ら株式会社Bの利益を図る目的で,本件買取りに及んだとする被告人の捜査官に対する自白が信用できることを併せると,株式会社Bの利益を図る目的で本件買取りに及んだことが明らかである。
5 所論は,被告人に任務違背の認識があり,本件買取りが株式会社Aに財産上の損害を与えることの認識があった旨原判決は認定するが,本件買取りは,公然と行われた経営判断の一環であり,これらの点についての被告人の検察官に対する自白調書は信用性に欠けるから,原判決には事実の誤認がある,というのである。
  上記認定の諸事実のほか,本件買取りの対象商品が無価値であって,販売できるようなものでないとの部下の意見具申があったのに,これを無視したこと,株式会社Bに対する支援方法等を具体的に調査,検討したこともないこと,株式会社Aの取締役会の承認を経ることもなかったこと等に加えて,捜査段階における被告人の取調べに関しては,違法,不当な点があったとはうかがわれない上,上記自白調書の内容を検討すると,株式会社Bの経営担当者として多量の不良在庫を抱えてしまったことに責任を感じたことや,株式会社Bブランドを任せてくれたJの恩義に報いたいという気持ちがあり,株式会社Bやその社員らへの思い入れが深かったことなどから,本件買取りが,株式会社Bには利益をもたらすものの,株式会社Aには損失を負わせる異常な取引であることは十分に分かっていた旨その心情を具体的詳細に供述しており,その供述内容を検討してみても,不自然,不合理な点はないこと等を考慮すると,十分に信用できるのであり,これらを総合すると,被告人に任務違背の認識があり,本件買取りが株式会社Aに財産上の損害を与えることの認識があったことが優に認められ,原判決に所論が指摘するような事実誤認はない。
6 所論は,原判決が商法486条1項所定の任務違背,第三者図利目的の解釈を誤った法令適用の誤りがある,というのである。
  しかしながら,原判決は,これまで述べてきたような諸事実を認定した上,本件買取りが,子会社に対する財政支援としても,緊急性,必要性がなく,株式会社Bに対する支援方法等を具体的に調査,検討したこともないし,株式会社Aの取締役会の承認を経ることもないこと等を指摘し,このような被告人の行為が株式会社Aの代表取締役の任務に違背するとともに,株式会社Bの利益を図ったものであると認定したのであって,所論がいうような誤りがあるとはいえない。
  所論は,原判決が,Cグループ各社間で,C本部の方針に拘束力を付与する内容の基本協定が締結され,子会社支援の方針についても,グループ経営会議が決定し,株式会社A単独で判断することは許されなくなったことや,取締役会の承認を得ていないことを理由に任務違背を肯定したと論難するが,そのような手続違反のみを理由として任務違背を肯定したものでないことは,原判決の記載からも明らかであり,所論は前提に誤りがある。
 その他,弁護人の所論を種々検討してみても,原判決には所論が指摘するような事実誤認や法令適用の誤りはない。
 論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。

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